先々週の土曜に上野の西洋美術館でレンブラント展を鑑賞してきた。

レンブラント展 (国立西洋美術館)
この展覧会(「レンブラント 光の探求/闇の誘惑」)では、
レンブラントの油絵10数点、版画約100点、関連作家の作品約10点の計124点が展示されている。
出品作品の大部分が版画であるが、
これだけの量のレンブラント作品を日本で見られる機会は比較的少ないし、
今回の展示作品には、油絵、版画共に優れた作品が多く含まれているので、
この(2011年)春東京で開かれている展覧会の中では、
写楽展(東京国立博物館)、フェルメール展(Bunkamura)等と並んで
質の高い展覧会かと思う。
※写楽展はまだ開催前だが、公式ホームページ等の情報を見る限りでは
相当内容の優れた展覧会のように思える。
出品作品のうち、
特に油絵に関しては、出品点数が少なく、
かつ版画と比べて巡り会える機会も希少なのでじっくり鑑賞しておきたいところだ。
(『東洋風の衣装をまとう自画像』、『アトリエの画家』『書斎のミネルヴァ』、
『旗手(フローリス・ソープ)』等)
版画に関しては、
小・中規模の作品が多い(版画なので当然油絵よりも小さいサイズになりがちだが)ものの、
主題、表現、刷り方等のバリエーションも多様なので
どの作品も興味深く鑑賞できるかと思う。
ただし、版画の場合、会場の混雑具合によっては
全ての作品に近寄って鑑賞することは難しいかもしれないので、
そのような場合は、いくつか気になる作品をピックアップして、
集中的に鑑賞してもよいだろう。
鑑賞に当たっては、
公式サイト、会場の解説等の他、
次のような視点(一例)から作品を見るとより有意義な鑑賞ができるかもしれない。
1) レンブラント様式の特徴をつかむ
レンブラントの絵画、版画は、「光と影」、「光と闇」等と形容される、
明暗と濃淡の(しばしば)劇的な対比が様式上の特徴である。
(展覧会のタイトルにも「光と闇」という表現が使用されているように)
また、レンブラントの同時代の北方絵画(バロック絵画)に共通の、
画面中にただよう重層的で動的な空気感、
人物・衣装・背景・小道具・風景の輪郭が溶け合って生み出される
画面内の色彩の一体的な調和等も、
今回出品中のレンブラントの作品(特に後期のもの)には強く表れている。
この展覧会はレンブラントの作品を100点以上鑑賞できる貴重な機会なので、
それら一連の作品の鑑賞を通して、
是非上記のようなレンブラント美術の様式的特徴を視覚的に把握し、楽しむようにしたい。
今回の展覧会では他の画家の作品がわずかな点数しか展示されていないため、
レンブラントの作品を会場内で他の画家の絵画・版画等と
比較しつつ鑑賞することはできないが、
事前にイタリア・ルネサンスの画家
(誰の作品でもよいが、例えばレオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロ等)の絵画や
北方ルネサンスの画家(ヤン・ファン・エイク、デューラー等)の絵画等を
画集等で数点鑑賞し、
そのイメージを頭の中に持っておくと、
展示会場の作品を鑑賞する際に
レンブラントの作品独自の特徴(上で述べたもの)が捉えやすくなるだろう。
2) 自画像画家としてのレンブラント
レンブラントは自画像を多く描いた画家だが、
今回の展覧会にも、油絵、版画合わせて10点弱のレンブラントの自画像が展示されており、
各作品それぞれに興味深い構図、様式を備えている。
豪華な衣装に身を包み足下に犬を従える自画像(『東洋風の衣装をまとう自画像』)、
画面中央に(部屋の大きさと比べると不釣り合いと思えるほど)大きなサイズのイーゼル、
画面左奥に絵筆を持ったレンブラントが描かれている
珍しい構図の自画像(『アトリエの画家』)、
手すりに腕をかけ体をねじった体勢のレンブラントの顔、表情、腕、衣服等を
精密な線の組み合わせで掘り出した版画の自画像(『石の手摺りにもたれる自画像』) 等
一般的に、自画像は、誰か顧客から注文を受けて描かれるというよりも
画家自身の目的(自己表現、技法の探求、内面の探求等)のために描かれることが多いので、
レンブラントの自画像を鑑賞する際にも、
作品の質、描き方、色彩等の特徴に加え、
・その自画像がどのような目的で描かれているか
・その自画像にレンブラントのどのような自己像が投影されているか
・その自画像でどのような表現上の実験が行われているか
等に注目・推測しつつ鑑賞すると、さらに面白く見られるかと思う。
3) 多種多様なレンブラント版画
今回の展覧会ではレンブラントの版画作品が100点以上展示されており、
作品毎に、主題、様式、刷り方、用紙等のバリエーションが様々に異なっている。
主題面では宗教版画、人物版画、自画像、風俗版画、静物版画等の各ジャンルで、
優れた作品が多く展示されており、
宗教版画の『病人たちを癒すキリスト(百グルデン版画)』、
『3本の十字架』、『エッケ・ホモ(民衆に晒されるキリスト)』、
風景版画の『オンファル』、『3本の木』、
自画像の『石の手摺りにもたれる自画像』あたりは是非じっくり鑑賞したい作品だと思う。
様式面では、
典型的なレンブラント様式(光と影のコントラストを生かし、
かつ生気あふれる空気の濃淡等も描かれているもの)の作品の他に、
レンブラントが油絵ではあまり使用しないような様式
(光の効果、空気の濃淡等の劇的な演出が用いられない、
または用いられたとしても控えめにしか使用されず、
むしろ、細密な線で対象(人物、風景、物体)を写実的、かつ精密に描写することに
重点が置かれた様式)の作品も出品されており、
描き方の面から作品同士を色々比較しながら鑑賞すると
レンブラント版画の様式面での多様性や違いが見えてきて興味深いかもしれない。
※前者の作品例としては、『病人たちを癒すキリスト』、『3本の木』、
後者の作品例としては、『窓辺で描く自画像』『貝殻』『オンファル』等
刷り方、用紙の面では、
この展覧会には、同一主題で、濃淡、構図、刷り具合、用紙等が異なる
版画の連作が数組展示されているが、
その中には、上記のどれかの要素を少し変えただけで
画面の印象が大きく異なっている版画も多く、
連作内の各作品を比較して鑑賞すると
色々発見点が多いはずだ。
※具体的には、『3本の十字架』、『エッケ・ホモ』の各連作等。
[まとめ]
今回のレンブラント展は出品作品の質も平均して高く、
上記以外にも様々な観点から楽しめるかと思うので
4月、5月で何か展覧会に行きたいと思っている方は、
是非行き先候補に入れることをお勧めする。
※もし可能なら、ゴールデンウィークと会期末直前の2週間程度の期間を避けて訪れたほうが、
極端な混雑を避けられて、作品の鑑賞が若干スムーズになるかと思う。
おすすめ度 ☆☆☆☆ + ☆半分
[開催情報]
会期 2011年3月12日〜6月12日
会場 国立西洋美術館
開館時間 9:30〜17:30 (金曜は20:00まで開館)
休館日 毎週月曜
入場料 大人1400円、大学生1100円、高校生600円、中学生以下無料
※最新の開館情報は公式ホームページで要確認
[巡回情報]
2011年6月25日ー 9月4日 名古屋市美術館